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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1662号 判決

控訴人 株式会社中村屋売店 外一名

被控訴人 瀬尾忠

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等訴訟代理人は、適式の呼出を受けながら、当審における本件口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなされた控訴状の記載によれば、控訴の趣旨は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めるというにあり、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は、すべて原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

訴外松筑農産加工農業協同組合連合会が昭和三〇年三月二二日控訴人柳沢彌平に宛て、金額二十万円、満期同年四月二二日振出地支払地とも松本市、支払場所長野県信用農業協同組合連合会松筑支所なる約束手形一通を振出し、控訴人柳沢彌平は即日控訴会社に、控訴会社は同日被控訴人に、それぞれ支払拒絶証書の作成義務を免除して、右手形を裏書譲渡したことは、当事者間に争のないところであり、成立に争のない甲第一号証によれば、被控訴人は、右手形の所持人として満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、その支払を拒絶されたことが認められる。

控訴人等は、本件手形は、訴外三浦音治が被控訴人から昭和三〇年一月二〇日金一四万七千円を借受けた際、その支払方法として交付した約束手形(振出人松筑農産加工農業協同組合連合会、金額二十万円、振出日昭和三〇年一月二〇日、満期同年三月二〇日、受取人並びに裏書人控訴人柳沢彌平)の書替手形であるところ、右連合会から昭和三十年三月二三日被控訴人に右借用金の弁済として金一万五千三百六十円を支払つたので、残債務は金十三万一千六百四十円に過ぎないから、右を超過する請求は失当であると主張するので考えるのに、原審証人深沢益雄、折井好郎の各証言及び右深沢証人の証言により成立を認めることのできる乙第一号証を綜合すれば、訴外三浦音治がさきに右連合会振出の金額二〇万円の約束手形を被控訴人から割引を受けて金十四万七千円を受取つたこと、その手形の書替のため本件手形の裏書が行われたこと、及び右連合会から昭和三〇年三月二二、三日頃金一万五千三百六十円が被控訴人に支払われたこと(但し右金員は書替前の手形の利息として支払われたもので、本件手形金の内入ではないこと)が認められる。してみれば、右支払額を本件手形金額より控除すべき旨の控訴人等の主張は理由がないし、裏書人たる控訴人等としては、本件手形金金額について支払をなすべき義務あること勿論である。

なお、控訴人等は、控訴人柳沢彌平から控訴会社に対する本件手形の裏書は、同会社取締役会の承認を得ないでなされたものであるから無効であると主張するので考えるに、控訴人柳沢彌平が本件手形の裏書当時も控訴会社の取締役であつたことは、被控訴人もこれを争わないところであり、商法第二六五条によれば、取締役が会社と取引を為すには取締役会の承認を受けなければならないことになつている。而して、控訴人間の本件手形裏書につき控訴会社取締役会の承認のあつたことを認めるべき何の証拠もない。しかしながら、右商法第二六五条が、取締役と会社との間の取引を制限しているのは、その取引によつて会社に不利益を生ぜしめるおそれがあるためであるから、もし会社に不利益を生ぜしめるおそれがない場合は、取締役と会社との間の取引でも、商法第二六五条の適用を除外すべきものと解するのを相当とする。本件において取締役たる控訴人柳沢彌平が控訴会社に本件手形の裏書をなすも、これにより控訴会社は手形債務を負担することになるものではないし、会社に不利益を生ぜしめるおそれもないから、右裏書は、これにつき取締役会の承認がなくても有効であると解すべく、控訴人等の前記主張はこれを採用することができない。

しからば、控訴人等は各自被控訴人に対し、本件手形金二十万円及びこれに対する呈示の翌日たる昭和三〇年四月二三日から支払ずみに至るまで手形法所定年六分の割合による利息の支払をなすべき義務あるものといわなければならない。

よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田豊)

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